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監督・脚本:、出演:、、、、、、、、ほかの『』。
黒木華の初単独主演作品。
派遣教師の七海(黒木華)はで教師の鉄也(地曵豪)と出会いやがて結婚することになるが、彼女には離婚した両親(金田明夫、毬谷友子)以外に親戚がいないため、SNSの知り合い「ランバラル」から紹介された“なんでも屋”の安室(綾野剛)に結婚式の代理出席の手配を依頼する。無事式も終わり新婚生活が始まったが、ある日、鉄也の元教え子の彼氏だという男性が訪ねてきて、鉄也の浮気について語りだす。
岩井俊二監督の映画を観るのは2004年の『』以来12年ぶり。
90年代、初の長篇劇場映画『』やその次の『』を映画館で鑑賞、短篇映画やTVドラマ作品なども観たし、結構好きでした。
というか、90年代の映画といえば僕は真っ先に岩井俊二作品を思い浮かべる。ちょうど(王家衛)の映画のように。
もちろん、それ以降も岩井監督は映画を撮ってるけど、20年ぐらい前、この人の映画はいろいろ新鮮だったんですよね。
手持ちで微妙に揺れてるキャメラワーク、TV番組のスイッチング的に差し込まれるアップショットやわざとぶつ切りにしたようなジャンプカットの使用、俳優たちの台詞台詞してないアドリブのような「自然な」演技。
旬の、あるいはこれからブレイクする俳優をうまく使う監督でもあった。
のように、岩井監督の映画への出演がきっかけで本格的に顔と名前が知られるようになった俳優さんもいるし。
たとえば岩井監督は監督からの影響を公言していたりして、過去の日本映画からいろいろ受け継いでいるものもあるんだろうけど、当時の僕にはこれまでに観たことのないタイプの作品を作る人、という印象だったんです。
その後、先に挙げた「岩井俊二的」な映像表現は映画だったり、特にCMやミュージック・クリップなどで頻繁に使われるようになって、珍しいものではなくなっていった。
それと同時に僕の岩井俊二作品への関心も次第に薄れていって、最近ではまったく観ていませんでした。
海外の人たちと撮った短篇や長篇映画も3.11についてのドキュメンタリーも1本も観ていないし、ついこの前のアニメーション映画『』も『Love Letter』に次ぐくらい好きだった『花とアリス』の前日譚であるにもかかわらず映画館には足を運ばず(上映館が少なかったせいもあるが)、DVDでも未見。
の番組「岩井俊二のMOVIEラボ」も観てたし、もちろん引き続き本業の方の活動もされてることは知っていたけれど、観客の立場からするとすでに「過去の人」といった勝手なイメージを持っていました。
それでも最新作に今誰よりも「旬の」女優、黒木華が主演するのを知って、これは久々に観てみたいな、と。
上映時間が180分あるというんで不安にもなったんですが。岩井俊二の映画を3時間堪えられるだろうか、と。
結果的には大丈夫でしたけどね。
ただし前もってお断わりしておくと、90年代当時に感じたような新鮮味はもはや感じなかったし、ハッキリ「長いな」とも思った。
だから絶賛モードではありません。どちらかといえば引いた目で(けっして“嫌い”なわけではありませんが)感想を書いています。
なので、この映画や岩井俊二監督作品が大好きだというかたは感想のテンションの低さやところどころ挟まれる揶揄めいた物言いにイラッとされるかもしれません。また、以降はネタバレを含みますのでご了承のうえお読みください。
ところで唐突ですけど、監督は蒼井優さんを起用してこれまで3本の映画を撮り、さらに黒木華さんを迎えて2本の映画を作ってますが、この女優のチョイスの仕方にちょっと岩井俊二監督がダブって面白かったんですよね。
言うまでもなく蒼井優さんを先に見出したのは岩井監督なんだけど、今回が初出演の黒木華さんも岩井監督が先に演出しててもおかしくないぐらいに(※出会い自体は2012年で、している)この監督の映画の世界観に馴染んでいる。
蒼井優については明確に異なるけれど、黒木華に関しては山田洋次と岩井俊二の二人の映画監督たちはいずれも似たようなキャラクターの女性を彼女に演じさせている。
つまり、真面目な性格で控えめで受け身なタイプの女性像。
黒木さんは昨年の『』では同じ教師役でもまったく異なる性格の女性を演じているので、それでも敢えてこういう役を彼女に振るということは、両監督に何か共通するものを感じるんです。
幸薄そうな黒木華を追いつめて泣かすという、趣向?w
僕としては、もうちょっといろんな黒木華を見たいんだけどな。
でも黒木さんのファンの人は観ておくべきでしょうね。3時間、ほとんど出ずっぱりだから(綾野剛も結構出てきます)。
この映画で黒木華はほぼ受けの芝居に徹していて、なんというか、観ていて実にサディスティックな気分になるんですよね。
中学生たちにからかわれる時の彼女の困った顔、哀しそうな表情を見ていると、いたいけな存在を傷つけているような後悔の念に駆られる。
と同時に、いじめっ子の快感みたいなものも感じるのです。この映画で黒木さんが演じる七海は人が苛めたくなるキャラクターなんだよね。
つくづく岩井俊二は黒木華を苛めたいんだなぁ、と思った。3時間かけてw
僕はむしろ『幕が上がる』の吉岡先生みたいなハンサムな黒木華に叱られたいんですが。
まぁ、苛められてるだけじゃなくて、楽しそうな笑顔も見せてくれますけどね。黒木華さんの歌声も聴けます(美声!)。
そして作品のもう一つの目玉は、やはりミュージシャンのCoccoでしょう。
僕はCoccoさんが主演した監督の『』は観ていないので彼女の女優としての実力というのはまったく知らず今回初めてその演技を見たんですが、まるで素で喋ってるような自然に聴こえる台詞廻しもお見事で、彼女が出てる場面では黒木華とのコラボレーションが素晴らしかった。
出番は意外とそんなに多くなくて、彼女が登場するのは映画が始まってから1時間ぐらいしてから。しかも途中で退場する。
それでもその存在は限られた出演時間で観客の網膜にしっかりと刻まれる。
彼女が演じたキャラクターは、ちょっと『スワロウテイル』や『』のを思わせるところもある。
二人とも同じミュージシャンだから、というのもあるかもしれないけど。
Coccoの場合は、どこかもっと痛々しい感じではあるが。
あるいは、が監督して岩井俊二が主演した『』でが演じていた少女にも似ているかもしれない。
映画の中の彼女は笑う時に大きく広がる口が一見健康的だけどいつも眉が下がって、そういう表情する人ってたまにいるけど、おかげでちょっと無理して笑顔を作ってるようにも見える。
あれ、素じゃなくて演技でやってるんだったらスゴいな、と思うんだけど。
僕はCoccoさんのファンというわけじゃないけど、これも90年代後期に彼女が全国的に有名になる少し前に買ったCDアルバム「」の中の1曲「」が好きで、今でも時々聴いています。
僕はこの曲を最初に聴いた時から“擬人化した「過去」の視点で唄った歌”だと勝手に思っていて、聴く者の解釈によって幾通りにも意味合いが変わってくる歌詞だし、偶然にも以前から岩井俊二の映画にピッタリだなぁ、と思っていたんです。
自分を捨てた人への歌だったり、死にゆく人に向けての歌にも聴こえる。
最後の「私を忘れてしまえばいい」というフレーズには胸を締めつけられるような気持ちになります。
あいにく映画には使われなかったけど、聴いてるだけで涙が出てくるような、そしてこの『リップヴァンウィンクルの花嫁』でのCoccoさんの役柄にもちょうど合ってる曲なんじゃないか、と。
彼女はこの映画でもちょっとだけ歌声を聴かせてくれます。
“”とは、による同名短篇小説の主人公の名前。
酔っ払って眠ってるうちに20年経っちゃった、西洋版“浦島太郎”のおじいさんの話。
この『リップヴァンウィンクルの花嫁』では、“リップヴァンウィンクル”はCocco演じる里中真白がSNSで使っているハンドルネーム。
Wikipediaによれば、はアメリカ英語で「眠ってばかりいる人」を意味する慣用句なんだそうで、だから劇中でヒロインの七海はしょっちゅう寝ている。
そのあたりを踏まえて観ると、夫とのトラブルから家を出て彷徨したり、お酒呑んで寝てしまうところとか物語が徐々に途方もないところに向かっていくところなど確かに元ネタと重なる部分があって、映画自体が一種の寓話っぽくもある。
黒木華演じる七海はTwitterに似たマイナーなSNSで最初「」というハンドルネームを使っているが、夫の鉄也にバレそうになったために途中でアカウントを変更して「」と名乗るようになる。
七海の説明によれば「が好きなので」ということだが(彼女は賢治の故郷、花巻出身という設定)、『幕が上がる』で黒木華が演じた美術教師が副顧問を務める演劇部では賢治の「銀河鉄道の夜」が上演されていた。カムパネルラ(カンパネルラ)はその主要登場人物の一人。
また『幕が上がる』ではヒロインの妄想の中で「声が小さい!」と怒鳴って灰皿投げて部員たちをシゴきまくっていた黒木華さんが、今回は声の小ささを生徒たちにからかわれてマイクを渡されてしまう派遣教師役、というのもなんだか可笑しい。
たまたま偶然だったのか岩井監督がわざと役柄を寄せたのか知りませんが(七海のキャラクターは最初から黒木華をイメージしてシナリオが書かれたそうですが)、面白いですね。
この映画に対する僕の印象は、一言でいうと「“岩井俊二的”なるものの総集篇」といった感じ。
実際、クソガキっぽい生徒たちの描写や卒業アルバムの中の写真、というのも『Love Letter』を思わせるし、劇中で冠婚葬祭が頻出するのも似ている。
岩井監督がワンパターンな作り手でないのならこれは意識的にやってるはずで、だから僕にはこの映画は岩井監督のベストアルバムみたいな作品に思えたのです。
必要以上に映画が長いのも、どうしてもこの尺でなければならないからというよりも、彼の映画にちょっとでも長く浸っていたい“信者”たちへのサーヴィスみたいな気もして。
七海と鉄也の結婚式の場面はどう考えても長過ぎで、知りもしない人の結婚式に参列しているような、あるいはそのヴィデオを見せられているような居心地の悪さを感じたのだった。
まぁ実は赤の他人なのに代理として出席してる人たちのお話でもあるので、同じように映画の観客に自分とは縁もゆかりもない人の結婚式に延々付き合わせるのも演出上の狙いだったのかもしれませんが。
ヒロインは映画の最初の方では自分が新婦だったのに、中盤では無関係な人たちの結婚式の代理出席者の一人になる、何やら不条理劇めいた展開。
個人的には「重婚している新郎」役でキリキリこと監督が出てたのがツボでしたw
派遣会社でクビを切られ鉄也とも別れて生活のあてのない七海は、早速自分が泊まったシティホテルのアルバイト従業員になる。
この立場の逆転というか、たやすく“役柄”が代わってしまう可笑しさ、怖さ。
この映画の根底に流れているのは、そういう「演じる」こと、人間は誰しもが何かを演じている、という事実だ。あるいはこれは「嘘」、または「偽物」についての寓話とも言える。
七海は教師をクビになったにもかかわらず、教え子たちには寿退職と偽る。
七海と鉄也の夫婦の仲を破壊した張本人でありながら、まるで七海の味方であるかのように装うなんでも屋の安室。
真白は本当はAV女優なのだが、七海や代理のアルバイトで家族役になった人たちには「職業は女優」とだけ告げる。
誰もが嘘をついている。
しかし、嘘から出た実(まこと)とでもいうか、出会いや別れ、さまざまなトラブルに翻弄されながらも七海は最後に自らの家と彼女を信頼してくれる教え子を得る(ひきこもりの女子生徒は最初から七海を頼りにしているけど)。
まるで「」かみたいな映画でした。
単なる環境ヴィデオみたいな映画ではなくれっきとしたストーリーがある作品だから退屈はしませんが、でもお話の面白さで引っ張っていく映画でもない。
岩井俊二の映画のファンならこの映画のペースは心地良いものだろうし、いつまでも浸っていたい、と思うかもしれない。この映画を「岩井俊二の最高傑作」と推す人たちもいるし。
でも人によっては苦痛と感じるかもしれません。独特のペースで進むので。
僕は苦痛ではなかったけど、「あぁ、“岩井俊二っぽい”映画だな」と終始わりと冷めた目で観たんですよね。
先述した岩井監督あたりから始まった「空気感」みたいなもので見せるCMがず~っと繋がってるような映画にも思えて(僕は物語があるようでないような“雰囲気”重視のあの手のCMが苦手なんですが)。
岩井俊二監督が編集を担当して、スタッフにいわゆる「岩井組」がかかわった『』で感じた「岩井俊二モドキ映画」という印象に近いものを、ご本家の映画からも感じてしまったのでした。
『ハルフウェイ』はとてもプロの脚本家が書いたシナリオとは思えないほど中身がスッカスカで、出演者の一見「自然」で「リアル」な「アドリブ的演技」にもたれかかった演出が不快な域にまで達していたけど、それに比べればこの『リップヴァンウィンクルの花嫁』ははるかにちゃんと「映画」として作られているし、充分に語るに足る内容だと思いますが。
この映画を真に味わうためには最初は七海がそうだったように受け身で映画を観ているのではなく、観客も自分で作品の中からいろいろと読み取らなければならないのでしょう。
正直なところ、僕は映画を観ている最中はいろいろわからなかったり腑に落ちないことだらけで結構戸惑ったんですよね。
一体これは何について描いている映画なんだろう、と。
で、映画を観終わったあとにあれこれ頭で考えました。勝手に理屈で書いてますので、もし的外れな解釈でしたら「いや、それはこうだよ」とご教示いただければ幸いです。
まず、場合によってはヒロインの七海よりも印象に残る、綾野剛演じる安室について。
安室はつまりトリックスターで、まるでメフィストフェレスのようなキャラクターである。彼はいくつもの名前を持つ。そして嘘つきだ。
もちろん“安室行舛(アムロゆきます)”なんていうフザケた偽名も数ある彼の名前の一つに過ぎない。最初の出会いの時に七海にそう言っている。七海が頼りにしていたSNSの知人「ランバラル」の正体もまた彼だった。
なんでガンダムにこだわってるのかよくわかりませんが。
これは悪魔と乙女の世界めぐりみたいな物語だ。
すべての原因は安室にあって、七海が離婚することになるのも(映画サイトの解説によっては、夫の母親が犯人だったように書かれているものもあるけど、違うでしょ。女物のイヤリングを家の中に落としたのは義母っぽいが)真白と出会うのもすべて彼が仕組んだこと。安室が七海を引っ張り回すことでお話が進む。
よくよく考えてみるとおかしな話で、七海を陥れることで安室が得をすることなど何もない(金が目的ではないことも途中でわかるし)。
病気の真白の“友だち”を探すためだった、という説明が彼の口からされるが、そのためにこんな手の込んだことをするのは変でしょう。
もし七海が夫の浮気相手の彼氏だという男を家に入れなかったら?七海が安室を頼って電話してこなければ?
もちろん、用意周到な安室のことだからいろんな女性に同時に声をかけていた可能性もあるが、こんなやり方はあまりに不確定要素が多過ぎて効率が悪過ぎる。
なのでこれは現実に起こり得る話などではなくて、一つの寓話なのだ。
安室は七海に「1時間あればあなたを落とします」と言う。
「スゴい自信ですね」と半ば呆れ気味に圧倒されている七海に、彼は「もしあなたが落ちたら、それはあなたが望んだからです」と答える。
だから、すべて実は七海自身の意志でやったことなのかもしれない。
マザコンでどこか妻を見下すような言動が多い夫とは、本当は彼女自身が別れたかったのだ。
ホテルで泣きながら弁当を食べている七海は「くそぅ…」と呟いて、やがて安室が口にする罵声を繰り返す。まるで彼に操られているように。
もしかしたら、安室は七海の心の中にいる存在なのかも。
散々七海を振り回す安室だが、彼はけっして単なる悪者としては描かれていない。“道化”なのだ。
かなり謎の多い人物にもかかわらず妙に人間っぽくて、真白が亡くなって彼女の母親(りりィ)が突然七海や安室たちの前で素っ裸になって泣きだすと、感極まって勧められた酒を飲み一緒になって服を脱いで泣きだす。
残念ながら「さぁ、七海さんも一緒に」と言われても黒木さんは脱ぎませんが(背中越しのシャワーシーンはある)。
裸はないけどメイドコスプレはあり
ただ、この安室がもらい泣きするシーンも「あれは嘘泣きなんじゃないか」という意見もあって「酒も飲んでるフリしてるだけで、顔に振りかけて涙に見せていた」と指摘してる人もいる。確かに僕もいきなり安室が「プッ」と吹いた時には笑いだしたのかと思った。
そういえば安室は役者でもあり、“市川RAIZO”という名前も持っていた(もちろんとは無関係)。
どこまでも胡散臭い男なのだ。でも憎めない。
僕はこれまで綾野剛という俳優さんがこれほど人気がある理由がよくわからなかったんですが(彼の主演作を1本も観たことがないというのもあるが)、この安室役を観てそのホストっぽさというか、いつも相手に合わせて「…ですよね~w」って感じで距離を縮めながらいつの間にか自分のペースに持っていっちゃうキャラというのは、なるほど非常に説得力があって惹き込まれました。
この映画の前に彼が主演の映画『』の予告もやってましたね。『』の監督さんの最新作なので、ちょっと興味あるんですが。
とりあえず綾野剛ファンの人たちは、『リップヴァンウィンクル』では彼のお尻が拝めますw
映画の終盤でわりと唐突に「AV女優の話」になっていくのが僕にはちょっとよくわからなくて、観終わったあとも頭の中がグルグルしていた。
七海と一緒に屋敷に住み込みで高額のメイドのバイトをする真白はAV女優だった。そして七海の雇い主は真白自身だった。彼女は七海に「幸せはお金で買う」と言う。
真白の葬儀のあとに七海たちと話す真白の同業者である女性たちは、真白のマネージャー役の夏目ナナをはじめやなど実際の元・現AV女優たちが演じているけど、恋愛や結婚についての話の中にAVのことが入ってくるというのはちょっと面白いな、とは思った。
喪服を着て並ぶ彼女たちが元・現AV女優だと知ってて観ると、とたんに「未亡人プレイ」に見えてくる不思議。
彼女たちにAVの世界の大変さや「私からAVの仕事をとったら何も残らない」と語らせることに岩井俊二監督はどんな意味を込めたのだろう。
真白を演じるCoccoの存在感にはもちろん疑いの余地はないのだけれど、僕は真白という女性が何を表わしているのかわからずに、観終わったあともずっと考えていたんです。
彼女が七海に語った「幸せの限界」というのがどういうことなのか、どうしても理解できなかった。
あの大きなお屋敷の中のウェディングドレス姿の彼女たちは、水槽の中にたゆたうクラゲそのものだ。
美しいが、手をかけて面倒を見なければすぐに死んでしまう。
真白は自分そっくりのクラゲたちを飼っていたということ。
この映画には、男女の結婚や恋愛に対する不信感みたいなものが漂っている。
七海の両親は離婚しているし、七海もまた夫と別れることになる。
AV女優たちの哀しみからもまた、男性不信のようなものを強く感じるのだ。
鉄也の母親は、七海が自分の両親が離婚している事実を隠していたことをちょっと異様な感じで問い詰める。鉄也に言われて結婚式での体裁を考えて七海が代理出席を頼んだことも、彼女の気遣いだとは考えずに「騙した」と一方的に責め立てる。
この母親は息子が結婚したあとも2週間にいっぺん彼と食事しにわざわざ東京までやってきたり、七海の不在時に勝手に家に入ったりしていた。
何か旧弊なものに囚われながら、自分がやっていることの異様さに気づいていない。
また、真白の母親は「人前で裸になるなんて」と娘がAV女優だったことを恥じ、七海たちの前で延々と娘との確執について語り、真白の生き方を否定し続けていた。
AV女優の仕事に対して「人前で裸」も何もないもんだが。裸どころではないでしょうに(※真白の母親役の16.11.11)。
世間体を気にするこの母親たちの姿からは、家族のしがらみというものへの岩井監督の距離感というか、彼がいかに既存の「家族」に不信感を抱いているかうかがえますが。
偽物の家族の方が仲が良さげだったり。そもそも“劇映画”とは偽の家族や友人を演じるものだ
このあたりも、山田洋次の「家族」へのまなざしとはなんとも対照的。
これは僕の勝手な解釈ですが、僕はここにも「嘘」とか「偽物」についての寓意を感じたんです。
AVって「嘘」じゃないですか。感じてないのに喘いだりするでしょう。
彼女たちもまた「演じてる」んですよね。
そして、それは私たちと何が違うんだろう、ってこと。みんな何かを演じているんだから。
「私なんかのために多くの人が尽くしてくれること」が堪えられなくて壊れてしまいそう、という真白の言葉が映画を観ている間は僕には理解できず彼女の苦しみに共感を覚えることもなかったんですが、あの言葉自体が“嘘”だったのだとしたらと考えたら、とても腑に落ちたのです。
この世の中には痛みや苦しみが溢れていて、無償の愛なんかないんだ、と。でもそれじゃあまりにツラ過ぎて生きていけないから、真白はその逆のことを言ったんじゃないのか。
「世界は幸せだらけなんだ」と。
本人は“嘘”ついてるつもりなんかないかもしれないけど。
そして真白が自ら命を絶ったのは、彼女のついた“嘘”を覆す存在=七海に出会えたからではないか。
真白は実は七海の代わりに死んだのではないか。
真白と七海を一人の女性が持つ異なる面だと考えれば、そしてこれが「幸せ」を求めながら他者との関係に疲れたり傷ついた人の話だと思えば、劇中で七海が経験することは人生におけるさまざまな困難や出会いの喩えのようにも思える。
先ほどのAV女優の言葉「私にはこれしかできない」という自己評価の低さ、自分を肯定できない状態に陥っているのは七海も同じで、だからこの映画はそういう人々へのエール、応援歌なのだ。
監督ご自身は、かつて取材したAV女優たちの言葉から彼女たちの強い自己肯定の念を感じて羨ましく思った、みたいなことをけど、彼女たちが「これは自分にしかできない。○○というAV女優は自分にしか演じられない」と言うのは、そうやって自分に言い聞かせることでなんとか自らを保っていたんじゃないだろうか。
自分を必要としている人たちがいて、これは自分にしかできないことだからやるんだ、と思い込むことでなんとか「壊れずに」生きてゆけるということはあるでしょうから。
ひきこもりの少女に「先生」と慕われて数学を教える七海もまた、そうやって彼女を必要としてくれる人のおかげで自分を肯定できるのだ。
世の中に出て一次関数や二次関数がなんの役に立つのかはわからないけれど、ともかく受験勉強には必要だし、そうやって教師と生徒が教え教えられて時に絆も生まれていく。
何がきっかけで人と人は出会い、別れ、どんな想い出や感情が残るのかわからない。
どこか無垢でお人好し過ぎる七海というヒロインは、その真面目さや人を信じる心によって結果的に誰かを救ったり、自分もまた「幸せ」へのとっかかりを手に入れたりする。
真白は「起きてくださーい」と“眠り姫”の七海を起こす。
目が覚めた時、世界はちょっと、でも確実に何かが変わっているかもしれない。
エンドクレジットで七海がかぶっているのは“ねこかんむり”というものだそうです。インターネットでいろいろ検索してみたけど、結局よくわかりませんでした。映画のために考え出されたものかもしれないけど、花嫁さんの角隠しを思わせたりもするので結婚に関係してるアイテムなのかもしれませんね。
いろいろと書いてきましたが、なんだかんだ言いつつも90年代から岩井俊二作品を観てきてそれなりに個人的な思い入れもあるので、その世界はどこか懐かしく、そして何よりも岩井俊二の世界に黒木華がいる、というのは至福のひとときでもあったから、この作品が生まれてよかった、と心から思います。
岩井監督の次回作もまた観たい。
その前に『花とアリス殺人事件』観とかなきゃ。『花とアリス』もそろそろまた観たいなぁ。
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